開業して半年、ホームページに「相談事例」のページを作ろうとしている。名前は伏せ、年齢も少しぼかした。これなら大丈夫だろうか。心理オフィスKの北川清一郎氏は、カウンセラーの守秘義務は一般的な個人情報保護よりはるかに厳格なもので、氏名や住所を書かなければ問題ないという程度の理解ではなく、本人が特定されうる可能性まで含めて検討する必要があると書いています。[1]
この記事は、個人や少人数で相談室を開いているカウンセラーやコーチに向けたものです。守秘義務がどこから来るのか(資格がない場合も含めて)、守秘より優先されるのはどんなときか、そしてひとりで運営している相談室で、秘密が実際に漏れやすい場所──集客、事例検討、予約と連絡──を、条文と判決をもとに整理します。法的な助言ではないため、個別の判断は弁護士に相談してください。
この記事の結論
カウンセラーの守秘義務は、公認心理師なら法律(公認心理師法 第41条)で、資格がなくても相談の契約に伴う義務として負います。仮名で書いた事例でも、知っている人が本人だとわかれば違反とされた判決があります。命に関わる危険や児童虐待の通告は守秘より優先され、こうした例外は最初の面接で伝えておきます。
目次
守秘義務は、どこから来るか
「カウンセラーには守秘義務がある」と言うとき、その義務の出どころは、持っている資格によって違います。ただし、どの場合でも守秘義務がないカウンセラーはいない、と考えておくのが安全です。
公認心理師は法律で
公認心理師は、正当な理由なく、業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならず、公認心理師でなくなったあとも同じです(公認心理師法 第41条)。違反には罰則があります(同法 第46条)。[2]精神保健福祉士など、ほかの国家資格を持つ心理職も、それぞれの法律に守秘義務の定めがあります。[3]
臨床心理士の場合は、日本臨床心理士会の倫理綱領が、業務上知り得た対象者や関係者の個人情報と相談内容について、守秘義務を第一とするよう定めています(第2条第1項)。[4]倫理綱領は法律ではありませんが、会員にとっては守るべき規程です。
資格がなくても、契約で
国家資格を持たないカウンセラーやコーチには、公認心理師法のような法律の守秘義務はかかりません。それでも守秘義務がないわけではありません。
カウンセラーが面接で知った相談者の私的な事柄を、無断で書籍に書いたことが争われた裁判があります(東京地方裁判所 平成7年6月22日判決)。裁判所は、話を聴いて対話をするカウンセラーと、その対価を払う相談者との間に、医師と患者の治療契約に似た「心理治療契約」ともいうべき契約が結ばれていたと認め、その性質上、カウンセラーは契約上当然に守秘義務を負うと判断しました。この事件では、カウンセラーに損害賠償の責任が認められています。[3]
つまり、資格の有無にかかわらず、相談を受けてお金をもらった時点で、守秘義務は契約の中身として生まれています。民間資格のカウンセラーやコーチも、ここから外れることはありません。
個人情報保護法との重なり
相談室を運営していれば、個人情報保護法の「個人情報取扱事業者」としての義務もかかります。個人データを第三者に渡すには、原則として本人のあらかじめの同意が必要です(第27条第1項)。[5]
ただ、守秘義務は個人情報保護法より範囲が広いと考えておきます。個人情報保護法が主に扱うのは、名前や連絡先など「誰か」がわかる情報です。守秘義務が守るのは、相談で話された中身そのもので、名前を消しても、話の中身から本人がわかれば漏れたことになります。この違いは、後の章の「事例」で効いてきます。では、どこまで守るのか、守秘より優先されるものを見ていきます。
守秘より優先されること
守秘義務は絶対ではありません。命に関わる危険があるとき、法律が通告を求めているとき、本人が同意したときには、秘密を外に伝えることになります。大事なのは、例外がある場面を自分の中で決めておくことです。その場で迷うと、動くのが遅れます。
命に関わる危険
臨床心理士の倫理綱領は、相談内容が自分や他人に危害を加えるおそれがある場合と、法律による定めがある場合を、守秘の例外として挙げています(第2条第1項)。[4]個人情報保護法も、人の生命や身体の保護のために必要で、本人の同意を得ることが難しいときは、同意なく第三者に提供できるとしています(第27条第1項第2号)。[5]
実務では、相談者が自分を傷つける具体的な計画を話したとき、誰かに危害を加えると話したときが、この場面にあたります。誰に(家族、医療機関、警察)、どの順で連絡するかを、相談室の手順として紙に書いておきます。
子どもの虐待の通告
児童虐待を受けたと思われる子どもを見つけた人は、速やかに市町村や児童相談所などに通告しなければなりません(児童虐待防止法 第6条第1項)。この法律は、刑法の秘密漏示罪の規定やその他の守秘義務に関する法律の規定は、この通告の義務を守ることを妨げるものと解釈してはならないと定めています(同条第3項)。[6]
つまり、カウンセリングの中で虐待をうかがわせる話を聞いた場合、守秘義務を理由に通告を控える必要はありません。親の相談を受けていて子どもへの虐待が疑われる場合、子ども自身の相談の中で家庭での暴力が語られた場合などが考えられます。通告先の電話番号(児童相談所の全国共通ダイヤル「189」)は、相談室の手順書に書いておきます。
本人の同意と、法令にもとづく求め
本人が同意すれば、決めた相手に決めた範囲で伝えることができます。主治医への報告、紹介先への情報提供、家族への説明などです。同意をとるときは、誰に、何を、何のために伝えるのかを具体的に示します。「必要に応じて関係者に伝えることがあります」のような包括的な同意では、本人が何に同意したのかがあいまいになります。
裁判所や捜査機関から法令にもとづく照会や求めがあった場合も、例外になりうる場面です(個人情報保護法 第27条第1項第1号)。[5]ただし、どこまで答えるべきかは場面によって違うため、このときは弁護士に相談してから対応します。こうした例外は、起きてから説明するのでは遅すぎます。
例外を、最初に伝えておく
倫理綱領は、開示せざるを得ない場合について、その条件などを事前に対象者と話し合うよう努めることを求めています(第2条第2項)。[4]最初の面接で何をどう伝えるかの台本は、インテーク面接の記事の「最初に説明しておくこと」で扱っています。ここでは、書面と、外から聞かれたときの対応を見ます。
同意書の書き方
カウンセリングの同意書に、守秘とその例外を書いておく相談室は多いはずです。気をつけたいのは、書き方によって「同意をもらった」ことになるかどうかが変わる点です。
前述の判決を解説した弁護士は、同意書が「相談内容を第三者に提供することに同意する」という内容なら同意を得たことになるが、「第三者に提供する前には同意をとることを説明する」という内容なら、今後同意をとると説明しただけで、同意そのものはまだ得ていないと解釈される可能性が高い、と指摘しています。[3]
| 同意書の文言 | 意味 |
|---|---|
| 「スーパービジョンのために、個人が特定されない形で相談内容を共有することに同意します」 | この範囲の共有について同意を得ている |
| 「相談内容を第三者に伝える場合は、事前にご本人の同意をいただきます」 | 手順の説明。実際に伝えるときに、改めて同意が要る |
| 「生命の危険がある場合や法律で定められた場合は、同意なく伝えることがあります」 | 例外の告知。例外の場面では同意は要らない |
どちらの書き方を選ぶかより、書いた内容と実際の運用をそろえることが大切です。「事前に同意をいただきます」と書いたなら、事例検討に出す前に、毎回同意を確かめます。
家族や紹介元から聞かれたとき
相談者の家族から「うちの子は何を話していますか」と電話がかかってくる。紹介してくれた知人から「あの人、通っている?」と聞かれる。こうした問い合わせには、相談に来ているかどうかも含めて、本人の同意なしには答えないのが原則です。「ご本人の了解がない限り、来ているかどうかも含めてお答えできません」と伝えます。
未成年の相談で親が費用を払っている場合など、親に何を伝えるかは最初に三者で取り決めておくと、あとで困りません。ここまでが面接室の中と、その延長の話です。守秘が実際に破れやすいのは、面接室の外です。
集客で漏れる:事例、感想、SNS
ひとりで開業している相談室にとって、ホームページやSNSでの発信は、新しい相談者に出会うための大事な手段です。そして、守秘義務と最もぶつかりやすいのも、この発信です。
仮名でも特定される
前述の判決で問題になった文章は、相談者を「A」という仮名で書いていました。それでも、年齢、学歴、職歴、家族関係、異性関係、展覧会に出した絵のことなどが具体的に書かれ、その内容がほぼ本人の事実と一致していました。裁判所は、本人を知る人にとっては、その人物が本人だと容易にわかるとして、守秘義務違反を認めています。[3]
地域で開業している相談室ほど、相談者と読者の生活圏が重なります。「40代、二人の子どもを育てる看護師」と書けば、その人を知る人には誰のことかわかるかもしれません。事例を書くなら、複数の相談を組み合わせ、細部を変え、本人にも自分のことだとわからない程度まで作り直します。それができないなら、事例は書かずに、相談のテーマ(「職場の人間関係の相談が多い」など)だけを書きます。
お客様の声
「お客様の声」や感想の掲載は、本人に書いてもらい、掲載の同意をとるのが前提です。それでも、相談の内容がわかる感想は、本人が同意していても慎重に扱います。今は載せてよいと思っても、数年後に家族や職場の人が読んで、本人が困ることがあるからです。
- 掲載するのは、相談の内容ではなく、相談室の雰囲気や進め方についての感想にする
- 名前、年代、職業は、本人が希望しない限り載せない
- 本人から削除を頼まれたら、すぐに消すと最初に約束しておく
何気ない投稿
事例を書かなくても、日々の投稿から伝わってしまうことがあります。カウンセリングオフィスひなたあきらの投稿は、SNSに「今日は疲れた」と書けば、その日にカウンセリングを受けた相談者は自分のせいでセラピストが疲れたのかと思い込んでしまうだろう、と指摘しています。[7]
守秘義務の違反ではなくても、相談者が「自分のことを書かれたかもしれない」と感じる投稿は、信頼を損ないます。面接のあった日の、その日の出来事や感情は書かない、と決めておくだけで、多くの迷いはなくなります。発信の次に気をつけたいのが、学ぶための共有です。
スーパービジョンと事例検討
スーパービジョンや事例検討会は、カウンセラーが自分の仕事を振り返り、相談者によりよい支援を届けるために欠かせません。ただし、相談の内容を第三者に伝えることには変わりなく、守秘義務の範囲で行う必要があります。
出す前に同意をとる
スーパービジョンで相談内容を共有することがある場合は、最初の同意書にそのことを書き、さらに実際に事例として出す前にも、本人に確かめるのが丁寧なやり方です。前述の弁護士の解説も、事前に同意を得ている相談者から、提供の前にもう一度同意をとる必要があるかを論点として取り上げています。[3]
事例検討会のように複数の人が参加する場や、研究発表、書籍への掲載は、スーパービジョンより共有の範囲が広くなります。範囲が広いほど、同意をとる手順を丁寧にします。
匿名化の手順
事例を出すときは、次の順で情報を削り、変えていきます。
- 名前、住所、勤務先、学校名など、直接わかる情報を消す
- 年齢、家族構成、職業など、組み合わせると特定できる情報を、検討に必要な範囲まで粗くする
- 珍しい出来事や特徴(受賞歴、事件、特殊な職業)は、別のものに置き換えるか削る
- 資料は回収するか、オンラインなら画面共有だけにして、ファイルを配らない
検討会の参加者が相談者と同じ地域に住んでいることもあります。「この場の人が読んでも本人にたどり着けないか」を最後に確かめます。次は、日々の予約と連絡の中で起きる漏れです。
予約と連絡で漏れる
ひとりで運営する相談室では、予約の受付、確認のメール、リマインド、支払いの連絡まで、すべてを自分で回します。その一つひとつが、相談に通っていること自体を、本人以外に知らせてしまう経路になりえます。
メニュー名と通知
予約ページのメニュー名は、確認メールやリマインドの件名、相手のカレンダーの予定にそのまま入ることが多くあります。「うつのご相談(60分)」「夫婦関係カウンセリング」のようなメニュー名は、家族と共有しているパソコンやスマートフォンの通知に表示されれば、それだけで相談の内容が伝わります。
メニュー名は「個別セッション(60分)」「初回面接」のように、内容がわからない名前にしておきます。相談の種類で分けたい場合も、ページの説明文や予約フォームの選択肢で分け、メールの件名に載る名前には入れません。
メール・電話・留守電
- メールの本文には、相談の内容を書かない。日時の確認と、変更の方法だけにする
- 電話をかけるときは、相談室の名前を名乗る前に、本人が出たことを確かめる
- 留守番電話には、相談室の名前や用件を残さない。「〇〇です。また連絡します」程度にとどめる
- 連絡してよい方法(メールのみ、電話は可、など)を、最初に本人に聞いておく
相談者が配偶者や家族に知られずに通っている場合もあります。連絡方法の確認は、そのための最も簡単な手段です。
領収書とカレンダー
領収書の但し書きや、カード明細に表示される名前も、相談に通っていることを伝える経路です。但し書きは「セッション代として」のように内容がわからない書き方にし、明細の表示名は、自分の決済サービスの設定で確かめておきます。
自分の側のカレンダーにも注意が必要です。家族とカレンダーを共有していたり、スマートフォンのロック画面に予定の通知が出たりすると、相談者の名前が見えてしまいます。予定のタイトルに相談者のフルネームを入れない、共有するカレンダーと予約のカレンダーを分ける、といった設定を一度見直しておきます。
予約の仕組みで、内容を外に出さない
予約システムを使うと、確認やリマインドを自動で送れる一方で、何がどこに表示されるかを自分で把握しておく必要があります。予約フォームで何を聞き、メールやカレンダーに何が載るかを、使う前に確かめておきます。
予約の仕組みで確かめること
- メニュー名や説明文を、内容がわからない言葉で設定できるか
- 予約フォームの回答が、カレンダーの予定やメールにどこまで写るか
- 対面の場合、住所を予約が確定した人にだけ伝えられるか
- 相談者が自分で日時の変更やキャンセルをでき、そのために相談室へ電話をかける必要がないか
SailLab(セイルラボ)
以下では、予約の仕組みの一例として、SailLab を取り上げます。

SailLab は、予約ページ・カレンダー連携・予約フォーム・リマインドメールを1つにまとめた国産の予約システムです。
- メニューごとに予約ページを作り、名前と説明文を自由に決められます。メニュー名は確認メールやリマインドにも使われるため、「個別セッション」のような名前にしておけます
- 予約フォームの項目は自分で作れます。回答は予約と一緒に保存され、カレンダーの予定に写されるのは「追加のメモ」欄だけです。この欄には「相談の内容は書かなくてかまいません」と添えておけます
- 対面の場合は、住所を予約確定後にだけ表示し、確認メールで伝える設定があります
- 確認とリマインドのメールに、日時の変更とキャンセルのリンクが入り、相談者が自分で手続きできます
カウンセリングでの使い方はコーチ・カウンセラー向けのページで、予約フォームで聞かないほうがよい項目はカウンセラーの開業の記事で紹介しています。料金は料金ページで確認できます。
できないこと
できないことも書いておきます。相談記録やカルテを保管する機能はありません。記録は、これまでどおり自分で決めた方法で、鍵のかかる場所やパスワードで守られた場所に保管します。
確認メールは、相談者が予約で入力したメールアドレスに届きます。そのアドレスを家族と共有しているかどうかは、システムからはわかりません。連絡方法の確認は、最初の面接で本人に聞く必要があります。通知はメールだけで、LINEやSMSには対応していません。
守秘の点検リスト
相談室の運営を、次の10項目で点検してみてください。
| # | 確かめること |
|---|---|
| 1 | 同意書に、守秘とその例外(命の危険、虐待の通告、法令)が書いてあるか |
| 2 | 同意書の文言が「同意します」か「同意をとります」か、運用と合っているか |
| 3 | 危険があるときに誰に連絡するか、手順書に書いてあるか |
| 4 | 家族や紹介元から聞かれたときの答え方を決めているか |
| 5 | ホームページの事例は、本人にもわからない程度まで作り直してあるか |
| 6 | お客様の声は、掲載の同意と削除の約束をとってあるか |
| 7 | 事例検討に出す前に、本人に確かめているか |
| 8 | 予約のメニュー名や件名に、相談の内容が出ていないか |
| 9 | 連絡してよい方法を、相談者ごとに聞いているか |
| 10 | 領収書、カード明細、カレンダーに、内容や相談者の名前が出ていないか |
1から4は面接室の中、5から7は発信と学び、8から10は日々の運営です。まずは、いまホームページに載せている事例とお客様の声を、5と6の目で読み直すところから始めてみてください。予約ページを作り直す場合は、無料アカウントから作成できます。クレジットカード登録は不要です。
参考資料
- 北川清一郎@(株)心理オフィスK(@sofficek)Xの投稿、2026年5月20日
- e-Gov法令検索「公認心理師法」第41条・第46条(2026年10月10日確認)
- 三浦光太郎(弁護士)「【第一回】相談内容の守秘義務」金子書房note、2021年9月15日(東京地判平成7年6月22日 判例時報1550号40頁の解説)
- 一般社団法人日本臨床心理士会「一般社団法人日本臨床心理士会倫理綱領」第2条(2026年10月10日確認)
- e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」第27条(2026年10月10日確認)
- e-Gov法令検索「児童虐待の防止等に関する法律」第6条(2026年10月10日確認)
- カウンセリングオフィスひなたあきら(@hinataakira0630)Xの投稿、2025年10月6日
田口 奈津子 / SailLab 編集部
SailLab 編集部で、予約受付・事前決済・無断キャンセル対策や、教室とレッスンの運営など、対面とオンラインでサービスを提供する事業者向けの記事を担当しています。