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司法書士の開業で相続を軸にするのは、相続の登記が10年で1.4倍だから

15分で読める 岡田 沙織 岡田 沙織 / SailLab 編集部
司法書士の開業で相続を軸にするのは、相続の登記が10年で1.4倍だから

2023年の権利に関する登記の件数は、ピークだった1997年の60.9%でした。その中で、「相続その他一般承継による所有権の移転」の登記は、2014年の138.5%に増えています(40万5,159件増)。[1]司法書士の仕事の中心だった登記全体が縮む中で、相続の登記ははっきり増えているのが、いまの司法書士の市場です。

開業を考える司法書士からは「以前より厳しくなった」という声も聞かれます。一方で、相続の相談は、2024年の相続登記の義務化をきっかけに多くの事務所で増えています。この記事では、市場の数字と義務化の期限を確かめ、開業の手続きと費用、即独した司法書士の1年目の記録を見たうえで、相続を軸にした仕事の作り方と、個人の相続相談の受け方までを考えます。

この記事の結論

司法書士の開業では、登記全体が減る中で相続の登記と相談が増えています。権利の登記はピーク時の6割ほどですが、相続による所有権移転は10年で約1.4倍になり、相続の相談が増えたという司法書士は73.3%でした。2024年より前の相続も2027年3月31日までに登記が必要なため、個人の相続相談を受ける窓口を開業の軸にします。

士業の相談を予約で受ける考え方は、サービスビジネス向けリソース集にまとめています。この記事は公表されている資料と法令の内容を紹介するもので、個別の判断についての助言ではありません。

登記は減り、相続は増えている

日本司法書士会連合会(日司連)の『司法書士白書 2025年版』は、登記の件数の推移と、司法書士への調査の結果をまとめています。開業の判断に使う数字としては、いちばん新しい公開資料です。

登記全体はピークの6割

権利に関する登記(土地・建物の合計)の件数は、1997年の1,297万3,298件をピークに減少が続き、2023年は前年より7万5,015件増えたものの、ピーク時の60.9%にとどまりました。[1]同じ10年で、抵当権の設定は88.0%、登記の抹消は71.1%に減っています。

開業して16年になる新潟の司法書士は、ブログで独立開業について「以前と比較してかなり厳しくなったという印象です」と書き、その理由の1つに登記件数の減少を挙げています。[2]登記を待っていれば仕事が来る、という時代ではないことは、数字と現場の声が一致しています。

相続の登記は10年で1.4倍

その中で増えているのが相続です。2023年の「相続その他一般承継による所有権の移転」の登記は、2014年の138.5%で、40万5,159件増えました。白書は、この大幅な増加には2024年4月1日に始まった相続登記の申請義務化が影響しているものと思われる、としています。[1]

売買による所有権の移転も105.3%と増えていますが、増え方は相続が大きく上回ります。件数が伸びている分野に開業の軸を置くことは、限られた時間で仕事を作る1人の事務所にとって自然な選択です。

相談が増えた司法書士は73.3%

白書には、2024年度に日司連が会員に行った相続・遺言関係業務の調査の結果も載っています(回答1,790人)。過去5年間に相続・遺言関係業務の相談を受けたことがある人は98.1%で、そのうち2023年以降に相談が「増えた」と答えた人が73.3%、「減った」は1.4%でした。[3]

相談が増えた人の94.4%は、その原因を相続登記の申請義務化による国民の意識の変化だと感じていました。人口が少ない地域の事務所ほど、相談が増えたと答えた割合が高く、白書は、手続きがされないままだった不動産の相続の相談が義務化をきっかけに増えたのではないかとみています。[3]では、その義務化はどんな決まりなのか。期限を確かめます。

相続登記の義務化と2027年3月31日

相続登記の申請義務化は、相続の相談が増えている理由そのものです。期限があるので、相談が来る時期にも山があることを押さえておきます。

3年以内と、10万円以下の過料

法務省によると、相続(遺言を含む)で不動産を取得した相続人は、相続の開始と取得を知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません(不動産登記法第76条の2第1項)。正当な理由なく怠ったときは、10万円以下の過料の対象になります(同法第164条第1項)。[4]

遺産分割がまとまった場合には、その日から3年以内に、その内容を踏まえた登記を申請する追加の義務もあります。[4]相談に来る人の多くは、こうした期限を知って、何から始めればよいか分からない状態で来ます。

2024年4月より前の相続も対象

義務化の施行日は2024年4月1日ですが、それより前に開始した相続で、まだ登記をしていない不動産も義務化の対象です。この場合の期限は2027年3月31日までです(取得を知った日が2024年4月以降の場合は、その日から3年以内)。[4]

祖父母の代から名義が変わっていない土地や、地方の実家など、長く手続きがされていない不動産の相談は、この期限に向けて続くと考えられます。いま開業の準備をしている人にとって、期限まで1年半を切った時期に開業することになるという点は、相談の受け方を決めるうえで重要です。

相続人申告登記と所有不動産記録証明

義務化にあわせて、相続人であることを申し出るだけで基本の義務を果たせる「相続人申告登記」が設けられました。また、2026年2月2日からは、特定の人が登記名義人になっている不動産を一覧にして証明する「所有不動産記録証明制度」が始まっています。[4]

どの不動産が亡くなった人の名義になっているかを調べる手間が減る一方で、それをどう登記まで進めるかは、相談者にとっては分かりにくいままです。新しい制度を説明できること自体が、相談を受ける理由になります。期限と制度を確かめたら、開業の手続きです。

開業の手続きと費用

司法書士として開業するには、日司連の司法書士名簿への登録と、事務所を置く地域の司法書士会への入会が要ります。登録と入会は同時に手続きする形です。

登録と入会

司法書士法第8条は、司法書士となるには日司連に備える司法書士名簿に、氏名、事務所の所在地、所属する司法書士会などの登録を受けなければならないと定めています。登録の申請をする人は、申請と同時に、経由する司法書士会に入会する手続きをとり、登録の時にその会の会員になります(第57条)。[5]

合格した後は、司法書士会などが行う新人研修を受けながら登録と開業の準備を進める人が多く、後で紹介する即独した司法書士も、新人研修と開業の準備を並行していました。[6]

日司連の会員は2026年4月1日時点で2万3,505人で、そのうち簡易裁判所での訴訟代理などができる認定司法書士は1万8,698人です。[7]白書によると、2024年4月時点の会員の平均年齢は54.9歳で、40歳代が30.7%と最も多くなっています。[8]

登録の費用

登録の際には、登録免許税として3万円がかかります(認定を受ける場合は1件5,000円)。[9]これとは別に、日司連に登録手数料2万5,000円を納めます。[10]入会する司法書士会の入会金と毎月の会費は会ごとに違うので、入会予定の会の案内で確かめます。

開業の費用は、事務所の形で大きく変わります。後で紹介する即独した司法書士は、実家の一室を事務所にして、開業資金は100万円だったといいます。[6]購入したものとして、原稿の自動送り機能が付いたA4の複合機、職印などの印鑑を挙げ、登記の申請用のソフトは法務省の無料のものを使い、スマートフォンで固定電話の番号を使えるサービス(月1,481円)やホームページの制作(10万円)に費用をかけたと書いています。[6]個人で開業するなら税務署への開業届も出しますが、その期限の読み方は記事によって違うので、国税庁の案内で確かめておきます。

事務所と、依頼に応ずる義務

司法書士は、法務省令で定める基準に従って事務所を設けなければなりません(第20条)。業務上知った秘密を漏らしてはならない義務もあります(第24条)。[5]自宅で開業する場合も、相談者と会う場所と、書類を保管する場所を分けておきます。

司法書士に特有なのが、正当な事由がなければ依頼を拒めないという第21条の義務です(簡裁訴訟代理等関係業務は除く)。[5]得意な分野に絞って開業しても、来た依頼をすべて断れるわけではないので、扱いが難しい依頼を相談できる先輩や他の事務所とのつながりは、開業前から作っておきます。手続きと費用が見えたら、即独するかどうかです。

即独か、勤めてからか

合格してすぐに独立する「即独」と、事務所に勤めて経験を積んでからの独立。どちらを選ぶかは、実務の経験と、最初の依頼をくれる関係があるかどうかで決まります。

即独1年目の数字

2024年に司法書士試験に合格し、合格発表から4か月後に35歳で即独した森ヒロさんは、開業1年目の記録をnoteで公開しています。司法書士法人で8年間補助者として働いた経験があり、実家の一室で、開業資金100万円で始めました。[6]

項目1年目の記録
売上(独立翌月以降)約500万円(最高月80万円台、最低月20万円台)
依頼の内訳不動産決済30%、相続・親族30%、業務委託30%、商業登記5%、その他5%
依頼の経路不動産会社、司法書士、税理士

森ヒロさんは「とにかく不安定・不規則な依頼の受け方でした」「開業1年目なのでご祝儀依頼も多かったです」と書いています。[6]相続・親族の仕事が3割を占めていることは、先の白書の数字と重なります。

開業してわかった反省

同じ記録の「ひとり反省会」で、森ヒロさんは次の点を挙げています。[6]

  • 準備期間が4か月しかなく、「独立一年前から準備スタート」を勧めている
  • 開業資金を貯めながら、勤務司法書士として修業を挟んでも良かった
  • スタートが好調だったため、営業活動がおざなりになった
  • web集客をもっと早く始めるべきだった
  • 支部の役員や相談員など、売上にならない活動に時間を使いすぎた

補助者として8年の経験があっても、準備と営業には足りないところがあったということです。即独を選ぶなら、合格前から準備を始めておくことが、この記録からの教訓です。

厳しくなったという声と、広げる考え方

先の新潟の司法書士は、独立して会社員と同程度の300万円の収入を得るには、経費を考えると年に500万〜600万円の売上が必要で、月に約50万円の仕事を確保できるかを考えるよう書いています。[2]森ヒロさんの1年目の約500万円は、ちょうどこの水準に当たります。

一方、司法書士でTOSグループのCEOを務める沓脱亮さんは、司法書士の成長について「「登記が」専門から、「登記も」専門という視点で活動していくと」と書いています。[11]登記が減る市場では、登記の周りにある仕事まで受けることが、開業後の売上を安定させます。その代表が、相続です。

相続を軸にした仕事の作り方

相続の仕事は、相続登記だけで終わりません。登記の前後にある手続きまで受けられるかどうかで、1件あたりの仕事の大きさが変わります。

相続登記の先にある仕事

白書の調査では、相続・遺言関係業務の相談を受けた人の92.4%が、相続登記以外の相談も受けていました。相続登記以外の依頼を受託した人が受けた業務は、「法定相続情報一覧図の作成・保管及び一覧図の写しの交付の申出」が84.3%、「家庭裁判所に提出する申立書類作成」が82.2%で、そのほか死後事務委任契約や信託などもありました。[3]

預貯金の解約などの遺産承継業務、遺言書の作成の支援、成年後見の申立てなども、相続の相談から自然につながる仕事です。相談に来た人が、登記のほかにどの手続きを残しているかを最初に聞いておくと、受けられる仕事の範囲が見えます。

若い司法書士ほど受けたいと考えている

相続登記以外の相続・遺言関係業務を「積極的に受託したい」と答えた割合は、年齢によって大きく違いました。[3]

年齢積極的に受託したい
30歳代51.6%
40歳代45.9%
50歳代37.4%
60歳代22.3%
70歳以上17.8%

年齢層が下がるほど、相続の周辺業務に積極的です。会員の多くが50歳以上である中で、若い開業者が相続を軸にするのは、需要の伸びと、自分の強みが重なる選択だといえます。

紹介元と、個人からの相談

森ヒロさんの依頼の経路は、不動産会社、司法書士、税理士でした。[6]不動産決済の仕事は不動産会社や金融機関から、相続の仕事は税理士や他の司法書士からの紹介が入り口になりやすく、税理士の側でも、開業したばかりの人が紹介の経路を探しています。その事情は税理士の開業の記事で紹介しています。

もう1つの入り口が、相続の期限を知った個人からの直接の相談です。不動産決済は日程を相手が決めますが、相続の相談は、相談者本人が日時を選んで申し込む形にできます。この入り口を整えておくことが、相続を軸にする開業では欠かせません。次は、その相談の受け方です。

相続の初回相談の受け方

相続の相談に来る人は、何から手をつければよいか分からない状態で来ます。申し込みの段階で状況を聞いておくと、初回の相談で手続きの全体像と見積もりを示せます。

申し込みで聞くこと

  • 亡くなった方との続柄と、亡くなった時期
  • 不動産の所在地(市区町村まで)と、おおよその数
  • 相続人の人数と、連絡が取れるかどうか
  • 遺言書があるか、遺産分割の話し合いが済んでいるか
  • 登記のほかに残っている手続き(預貯金、株式、自動車など)

亡くなった時期が2024年4月より前なら、2027年3月31日の期限が関わります。期限に間に合うかどうかを初回の相談で伝えられると、相談者は安心して依頼を決められます。

相談料と見積もり

初回の相談を無料にするか有料にするかは、事務所の方針で決めます。相続の相談は、戸籍の収集や不動産の調査など依頼後の作業が多いので、初回の相談では手続きの流れと見積もりの考え方を伝え、依頼が決まってから費用の詳細を示す形が取りやすくなります。有料にする場合は、申し込みの時点で支払いまで済ませてもらえば、当日にお金のやり取りをせずに済みます。

秘密と記録

相続の相談では、家族の事情や財産の内容を聞くことになります。司法書士には秘密保持の義務があり(第24条)[5]、申し込みのフォームで聞く項目も、初回の相談に必要な範囲にとどめます。相談の日時と相談者の情報が予約の段階で残っていれば、依頼に進んだ後の記録をつける手間も減ります。最後に、こうした個人の相談を受ける仕組みを見ておきます。

個人の相談を予約で受ける

不動産会社からの決済の依頼と違い、相続の相談は個人から来ます。電話で日程を決める往復をなくし、空いている日時から選んでもらうだけで、相談の申し込みは受けやすくなります。

相続の相談の窓口に必要なこと

  • 決済の立ち会いや法務局へ行く予定がある時間は、相談者に見せない
  • 亡くなった時期や不動産の所在地を、日時と一緒に書いてもらう
  • 有料の相談なら、申し込みと同時に相談料を払ってもらえる
  • 相談の前日に、持ってくる書類のお知らせを届ける

SailLab(セイルラボ)

以下では、こうした窓口を作れるツールの一例として、SailLab を取り上げます。

司法書士の相続登記の初回相談の予約ページで、60分のオンライン相談の日時を選ぶ画面

SailLab は、予約ページ・カレンダー連携・事前決済・リマインドメールを1つにまとめた国産の予約システムです。

  • GoogleカレンダーやMicrosoftのカレンダーと連携し、予定のある時間は予約を受けません
  • 予約ページごとに受付フォームを付け、亡くなった時期や不動産の所在地を相談の前に聞けます
  • 相談の予約をしたその場で、カードで相談料まで払ってもらえます。入金は自分のStripeアカウントに直接入ります
  • 確認とリマインドのメールを自動で送り、前日に持ち物を知らせられます。オンラインの相談ならZoomやGoogle MeetのURLも予約ごとに発行します

対面の相談なら、事務所の住所は予約が確定した人にだけ知らせることもできます。士業での使い方は士業向けのページで紹介しています。カード決済にはStripeの手数料3.6%がかかり、SailLab の手数料はプランによって0%または3%です。料金は料金ページで確認できます。

できないこと

できないことも書いておきます。登記の申請や戸籍の収集を進める機能はありません。SailLab が扱うのは相談の予約と相談料の受け取りまでで、事件の管理や記録は別の仕組みで行います。

不動産会社が決める決済の日程を管理する機能もありません。通知はメールだけで、LINEには対応していません。相続の相談者には高齢の方も多いので、電話で申し込みたい人のための窓口も残しておきます。最後に、2027年3月31日から逆算して、開業までの動き方を並べます。

2027年3月31日から逆算する

時期相続の相談の動き開業を準備する人がやること
いま(2026年秋)期限を知った人からの相談が続いている登録の手続きと、紹介をくれる税理士・司法書士とのつながりを作る
開業の直前—相続の初回相談の予約ページとホームページを用意する
2027年1月〜3月期限の直前で相談が集中しやすい相続人申告登記など、期限に間に合わせる方法を説明できるようにしておく
2027年4月以降新しく発生する相続の、3年以内の登記の相談相続登記の先の手続き(遺産承継、遺言、成年後見)まで受ける体制にする

期限は1つの山ですが、相続そのものは毎年発生し、その3年以内の登記はこれからも義務です。期限の前に相談の窓口を作っておけば、その後も個人から相談が来る事務所になれます。相談の予約の受け方は士業のオンライン相談の予約についての記事も参考になります。相続の初回相談の予約ページを作ってみる場合は、無料アカウントから作成できます。クレジットカード登録は不要です。

参考資料

  1. 日本司法書士会連合会『司法書士白書 2025年版』第3章「不動産登記事件」(2026年10月7日確認)
  2. 新潟の司法書士ブログ「司法書士の独立開業」2023年9月25日
  3. 日本司法書士会連合会『司法書士白書 2025年版』特集2「令和6(2024)年度 司法書士実態調査」相続・遺言関係業務に関するアンケート、回答1,790人(2026年10月7日確認)
  4. 法務省「相続登記の申請義務化について」(2026年10月7日確認)
  5. e-Gov法令検索「司法書士法」第8条、第20条、第21条、第24条、第57条(2026年10月7日確認)
  6. 森ヒロ(司法書士)「【1】司法書士の開業記録|即独1年目」note、2026年2月23日
  7. 日本司法書士会連合会「会員数データ」2026年4月1日現在(2026年10月7日確認)
  8. 日本司法書士会連合会『司法書士白書 2025年版』第1章「司法書士の実勢」(2026年10月7日確認)
  9. e-Gov法令検索「登録免許税法」別表第一(2026年10月7日確認)
  10. 日本司法書士会連合会「司法書士登録手数料について」(2026年10月7日確認)
  11. 沓脱亮(司法書士、TOSグループCEO)のXの投稿、2026年10月7日
岡田 沙織

岡田 沙織 / SailLab 編集部

SailLab 編集部で、ひとりで事業を営む方や小さなチームに向けて、予約と日程調整のしくみづくりや、Googleカレンダー・Excelなど手元のツールの使い方とその限界について書いています。

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